そうして散々焦らされた後、やっとそいつは話し出した。

「…結芽がさ、置いてかれたんってまだ幼稚園くらいのときやろ?」

「…ああ」

その時のことを思い出して拳を握り締める。

「…あのときなー、倒産したらしいで、結芽の父親の会社」

「…へえ」

だから?って感じ。

倒産したからって小さい娘置いて妻と逃げるって…どういう神経してんだよ。

「それだけちゃうで。
ギャンブルで借金作ってヤクザに追いかけられとったって」

…随分刺激的だな。

「…で?」

「それでまあ足洗ったらしいねんけど、
それまでだいぶ汚ったない生活しとったらしくて、うちの母親も引いとったわ。結芽おらんでよかったゆうてたしな」

「…へえ」

「…結果、結芽を置いてよかったってことちゃう?
…まあそう思いたいんやろうけどな」