「まずいな」


先輩が眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げる。


「パニック……ですね」


「ああ。それに、もうすぐ陽が暮れる」


そうだった。わざわざ今日避難することにしたのは、明るい内に避難するため。
暗くなっては、元も子もない。


今からでは、安全に夜を越せる場所を探している暇もない。



私は改めて三つ巴の混沌を見つめた。


ゾンビ、自衛隊、群衆が入り乱れて、さながら戦場のような風景だった。


生きるためには、あそこを通り抜けなければならない。


でも、この世界にいる限り【死】はいつでも背中合わせだ。






覚悟を決めよう。


「いきましょう、先輩! 生きてここをでましょう!」


先輩は頷き、ずっと守ってくれたその手で、私の頭をやさしく撫でてくれた。


大丈夫。


そう言ってくれている気がした。