誰も助けてはくれない。


今度は、私が先輩を守る番だ。


そう思い至ると、ふいに紫音先輩の最後の言葉が脳裏をかすめる。


『みやびくんを、ま……』


あれは、「雅くんを──守って」きっと、そう言いたかったんだ。


教えてはくれなかったけど、紫音先輩は柏木先輩のことが好きだったんだ。私達と体育館で会わなければ、柏木先輩と2人で逃げようとしていたのも、好きだから。


なんとなくだけど、今の私にはその気持ちが分かる気がした。


腐臭が鼻をつき、女性が動く度に黒ずんだ傷口がグチュリっと音を立てる。


もう見慣れて怖くはない。はずなのに手が震える。


これは人ではない。
……人では。


自分に言い聞かせ、息を殺し、私はその時をじっと待った。


後三歩……二歩……一歩──。