焦って口元に耳を当てる──と、呼吸はしている。


気絶、してしまったようだ。死んでしまったわけではない。


ほっと胸を撫で下ろす。


私は、タオルを水で濡らして返り血の付いた先輩の顔や腕を拭った。


昨日出会ってから、ずっと私やみんなを守るため何度も囮になり、文句一つ言わず戦い続けてくれた先輩。

心ない男達から、救ってくれた先輩。

辛い過去を打ち明けて「守らせて」と言ってくれた先輩。



どれだけ必死に頑張ってくれたのだろう。


きっと、逃げるだけで精一杯だった私には想像を絶する過酷さだったことだろう。


そう思うと、なぜか急に柏木先輩が愛おしくなってくる。




どうしてしまったんだろう、私は……。




──ウィーン。


自動ドアが開く音がして私の思考は切り替わった。


誰かがコンビニの中に入ってきた?


そっと覗くと、やはりいる。


短いスカートから伸びた泥だらけの太股が齧(かじ)りとられた女性。
ゾンビだ。


出てって!


心の中で祈るが、ゾンビは棚にぶつかり自ら立てた音に反応し、また棚にぶつかり。


ゆっくりとこちらとの距離を縮めてくる。


先輩に声をかけても、起きるかは分からない。もし起きなければ、その声でゾンビに気付かれてしまう。




私は生唾を飲み込み、先輩の腰から日本刀を抜いた。