「や…オレが蜘蛛嫌いなの、知ってるだろ!!」

裕一郎は河村の手を払いのけると、嫌悪の表情で睨みつける。


「久司は式の趣味が悪いんだよ!!」


河村の力があれば、虫などではなく人形(ひとがた)だって可能なはずなのだ。

なのに敢えて虫…しかも裕一郎の1番嫌いな蜘蛛とは嫌がらせとしか思えない。

「久司って言うな。ボスって呼べよ、ボスって」

「ボスって器じゃないし、顔じゃない…」

「お前ね、倍以上年の違う人間捕まえて、そのセリフはないだろう…。認めないくせに持ち帰った霊の処理は人にさせるし」

河村はスルリと懐に蜘蛛を戻すと、

「とにかく、お前のやり方は見てるこっちまで具合悪くなるから止めろ。式蝶(しきちょう)を貸してやるから、今度からそれを使って仕事をするんだな」

代わりに、美しい銀色の羽根を持つ式神を裕一郎に差し出した。

「ほら、これを使え」

だが、少年は頑なに首を振ると拒む。

「いらない」

「いらないじゃないっ!!これはボスの命令だ」

「オレは式神なんかじゃなく、人間のパートナーが欲しいんだよ」

「馬鹿だなぁ…どの人間が、闇を食らってくれるって言うんだよ!!能力を持っているお前ですら、体内で消化不良起こすような量なんだ。仮にいたとしても、並みの能力者ごときじゃ無理ムリ」

話にならんと、顎髭を撫でながら河村はタメ息をついた。
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