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「………………」


裕一郎が目を覚ますと、事務所の革張りのソファーの上だった。

ここへ帰ってきた安心感に気を失ってしまったらしく、あの後の記憶が全くない…。


もぞもぞと体を起こすと、前方にいる不機嫌な顔の男と目があった。


「吐いてスッキリしたか?」

「あ、…あぁ…うん…」


ばつが悪くて、裕一郎は目を伏せる。


「裕、こっち向け」

「……」

「聞こえないのか」


河村の声には苛立ちが混じっていた。


消化できない量の闇を体内に溜めるな…裕一郎の体を気遣う河村の、それは口癖である。

時々、事が酷くなる前に自己申告をし、彼の式神の力を借りて自身では消化できない闇を処理していた。

そうしなければ、彼自身の体に不調を来す。

今回のように…。

それがバレてしまったとあれば、そう簡単に目を合わせる事は今の裕一郎には出来ない。


「…やだ…」


ボソリ答えると、いきなり河村に顎を掴まれ無理やり顔を上げさせられた。

「!!」

「俺は今、最高に不機嫌なんだよ…何でか分かってるよなぁ」

「……」


普段、温厚な河村がこんな威圧的な態度はとらないだけに、反論は出来ない。


「あれほど体内に闇を溜めるなと言っただろう…ぶっ倒れたのこれで何度目だ?俺に頼むのが嫌なら、いい加減に自分の式神を持てよ」

「式神なんていらないって、前から言ってるじゃないか」

「式神に闇を食わせれば、こんな苦しい思いをしなくて済むんだ。そんな簡単な事が、なぜお前は出来ない?手続きが面倒だって言うんなら、俺の式を1つくれてやってもいいって前々から言ってんだろうが」


河村は懐を探ると、手のひらの大きさの蜘蛛を取り出した。
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