古い磨(す)り硝子の嵌(はま)った木のドアを開けた途端に、彼は悪趣味な赤い絨毯の上にガクリと膝をついて倒れこんだ。

「どうした、裕!!」

彼の帰りを待ちわびていた、これまた悪趣味な顎髭を生やした青年が驚いて駆け寄ってくる。


「久司…ごめん…後を頼む…」


その言葉だけで、河村は何が起こるか理解した。

「うわっ、ちょ…待て…吐くの待てーっ!!」

河村が慌てて開け放ったままのドアを閉めると同時、彼の口から苦しげな声と共に大量のどす黒い闇が吐き出された。

それらは部屋中に広がったと思うと、瞬く間辺りを浸食し始める。

ぐったりと横たわる裕一郎は、既に意識がないようだ。

つまりこの闇を1人で処理しろという事らしい。


「くそっ…霊障を持ち帰っただけかよ!!あー、面倒くせぇ…式蜘蛛(しきぐも)、こいつらを全部食らえ!!」


式神を出した河村は、闇を指して叫んだ。

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