(今回の仕事がこんなにヘヴィだったなんて…聞いてなかったぞ…)


如月(きさらぎ)裕一郎は心の中で、ぼやく。

胃のあたりが焼けつくように熱く、ムカムカする…道端へ座り込みたい衝動に駆られたが、1度でもそうしたら2度と立ち上がれないような気がした。

この状況の原因は、彼の持つ変わった能力のせいだ。


自分の左手を媒体に闇への入口を作り出し、霊を体内に取り込み消化する…通称『Darkness Marker』と呼ばれる稀な存在―――。


人でありながら、闇に通じる世界と関わりを持つ者。


彼はその能力を買われ、霊障(れいしょう)事を扱う小さな事務所で働いていた。

育ての親兼、事務所のボスである河村久司(ひさし)の指示により、いつものように霊を闇に還す仕事の帰り道…一度に大量の闇を取り込んだ為か、体内で消化できず具合が悪いのだ。

全くをもって気分は最悪だった。

吐いてしまえば楽になるのかもしれないが、そんな事をしたらせっかく取り込んだ霊を再び外に放ってしまう事になる。

それをしてしまえばこの仕事の報酬はゼロ…苦労は水の泡だ。

我慢して、河村の待つ事務所に帰らなければ…そこまで行けば、後はあの男が何とかしてくれるだろう…。

裕一郎は必死で我慢して、そして事務所にたどり着いた――――。

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