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ああ、何なんだ、一体。
目の前に広がる光景に、俺は腹の底から湧き出るような黒い感情と、必死で戦っていた。それでもあっちは強くて、負けてしまいそうだ。というか、既に負けて支配されていると言っていいかもしれない。それくらい強いもの。
俺の視線の先には_____仲良さげに話す、鈴森先輩と北岡先輩。
彼らの仲の良さというのは、俺だってよく知っている。2人が話しているところなんて今までに幾度となく見てきたのだから。でも。
近い。のだ。
俺の向かい側で絵を描いている北岡先輩。その絵を、鈴森先輩が覗き込んでいる。そして何やらふたりで、その絵についての話をしているのだが、それくらいでは俺はなんとも思わなかった。声がするな、と思って顔を上げれば、その2人の顔の近さに思わず静止してしまった。
イーゼルは俺に背を向けていて、北岡先輩がどんな絵を描いているのかわからないから、話の内容も全くわからないけど、でも、あんなに近づく必要があるだろうか。
沸々と湧き上がる、醜い感情。嫉妬、とかいうやつ。
俺ってこんなに心の狭い男だったのかと、自分自身に呆れてしまう。鈴森先輩に出会ってから、俺の知らない自分が出てきて、自分で自分を何も解っていなかったんだな、と思う。
誰にもその変化に気づかれないように、抑えようと試みているというわけだ。
そんな気配は見られないけど。
自分に嫌気がさして、絵にも集中できずにため息を吐きかけた、その時。
「...あの、桐山くん?」
不意に名前を呼ばれて、その一瞬だけ、苛々が消え去った。