村山はドアの前で深呼吸して、部室のドアを開いた。その緊張した面持ちに、俺までもが緊張してしまった。
ドアの開く音で、部室内にいた部長がこちらを見た。
1歩、足を踏み入れる。
「......こんにちは」
村山の小さく息を吸う音が、近くにいた俺にだけ聞こえた。
何気ないその挨拶。
部長は、少し硬かった表情を和らげて、微笑む。
たぶん、全部わかってるんだと思う。じゃなきゃ、こんな何とも言えない顔して笑わない。
村山が無事部長に挨拶できたことに、何故か俺が安堵する。いや、村山自身の方がもっとほっとしているだろうが、それが俺にまで。
ふたり顔を見合わせてから、俺たちはそれぞれのイーゼルへと向かい準備をする。
「今日ふたりで来たんだね」
右側から声が聞こえて、俺に向けられたものだろうかと思い、そちらを見た。
「...坂田先輩。はい、さっきそこで会って」
「そうなんだ。珍しいなと思って」
「あー...そうですね」