「あ、星乃。ずげぇ集中してたから後で声かけようと思ってたんだけど、必要なかったな」



手洗い場には、そう言って笑う慶哉がいた。

後でって、今ももしまだ絵を描いていたらだいぶギリギリになる。ちゃんと自分で気づけて良かった。



「気付いたらこんな時間でびっくりしたよ」



苦笑いでそう答え、その隣に並ぶ。

蛇口を捻ると、手に当たる水がひんやりと冷たい。



慣れた手つきで、画材を洗っていく。部のものだから、丁寧に入念に手入れしないと。画材って、汚れていたら次に使う時に使いたくなくなっちゃうから。



無言のまま洗っていると、慶哉が先に水を止めた。



「じゃあ俺、先に帰るけど...」


「うん。ていうか待つ理由もないでしょ。また明日ね」


「ああ。気ぃ付けて帰れよ」



慶哉の通学手段は徒歩で駅とは反対方向。一緒に帰ったりすることはない。


彼が帰って数分、下校時刻までもあと5分程度のところで、すべての画材を洗い終わり、急いで干すところに立て掛ける。



最後なので電気を消して、部室を後にした。