さきほどまでの優しそうな表情が嘘のよう。彼は強い力でわたしに逃がす隙を潰した。


嫌だ。怖い。誰かたすけて。


背筋がひやりとして、震えた。こんなにも誰かを怖いと思ったのは初めてかもしれない。



「やだっ!誰か......っ」



じわり、涙が浮かんだ。


そのとき、滲む視界にもうひとつの影が現れた。それはわたしの目の前にあった恐怖を、一瞬で吹き飛ばした。



「.........、え」



床に叩きつけられるように倒れ込んだその恐怖の塊。それを蹴り飛ばしたのは。



「大丈夫ですか!?」


「........きりやま、くん」




まるでヒーローみたいだった。


いつもあまり表情に起伏のない彼が、とても焦ったような顔で、わたしの肩を掴む。その力はとても強かった。

とても安心する強さだった。



わたしの瞳から、涙が一粒こぼれた。