坂田先輩はゆっくり、立ち上がる。

心配かけさせたくなくて、必死に明るく振る舞ってるんだろう。本当は痛いだろうに。



「...家帰ったら、冷やしたほうがいいですよ」


「湿布じゃだめなの?」


「氷水で冷やした方が湿布よりも治りがいいんですよ」


「そうなんだ。詳しいね」


「......そうですね」



どきりとした。

でも、他人に話すような話でもない。あのときのことは、今でも少し思うことがあるから。だから、簡単には口に出せない。出すことができない。俺は、弱いから。


先輩が立つ横で俺も立ち上がる。



「部活、戻りましょうか。歩けますか」


「う、うん。本当にありがとう。歩けるよ」


「いえ、なら良かったです」



それからふたり、部室に戻ると、事情を知る部員みんなが心配そうな面持ちで坂田先輩の周りに集まった。





その日の帰りは、鈴森先輩とは会わなかった。