先輩がセッティングしたのは、自然に皺が作られた白い布に、りんご、バナナ、玉ねぎがバランス良く置かれている。それらを良く見ながら、明暗も付けて描いていく。



それからどれくらいの時間が経っただろうか。


やっと全てを描き終えて、今まで息をしてたことも覚えてないくらいだったから、ふう、と息を吐いた。それと同時に、力が抜ける。右手の小指側が真っ黒だ。



「どう?描けた?」


「一応...」



鈴森先輩が、手を止めて立ち上がりながら俺に問いかけた。俺が返事をすると、笑みを浮かべてこちらに歩み寄る。



「見てもいい?」


「はい」



俺の了承を得て、画鋲を外したその紙を先輩に渡す。

彼女は絵を遠ざけたり、近くで見たりと様々な見方をする。あまりにもまじまじと見られるものだから、ちょっと恥ずかしくなった。



「桐山くん、上手いね...!」


「あ、ありがとうございます」



感心したように言うから、ちょっとお礼がどもってしまった。お世辞なんだろうか。部に勧誘するために、どんな絵でもそう言うんだろうか。なんてひねくれた考えが浮かぶ。

でも、先輩の表情や声色からは、そうは思えなかった。