ドクン、と、心臓が跳ねる奇妙な音が全身に響いた。この鼓動は、嫌な音で。



「北岡先輩と...?」



北岡先輩と鈴森先輩は、高校に入って1年のときに同じクラスで、それが出会いだと聞いていた。だから中学は違うはずで、方向もいつも俺たちとは真逆の方へ向かうから、この辺りに住んでいるなんてことも考えがたい。


嫌でも訊いてしまう。訊かなければいいものを。聞きたくはないのに、だけど知りたい。いや、知らなければ。

だって知らないと、これからの"頑張り方"がわからないから。


俺の考えてることなんて思ってもいない彼女は、無垢な笑顔で答えてくれる。



「そう。慶哉のおばあちゃん家がこの辺なんだよね。それでお母さんに届けてほしいって言われたもの届けに行くって言うから、暇だったし着いてったの。それであのお店発見」


「ああ...そういうことだったんですね」


「うん、そういうこと」



なんだ、また俺の早とちりか。

大体、もしもふたりが付き合ってないとはいえそういう仲だったとして、それを知って俺はどうするって、答えはひとつしかないのに。



「...鈴森先輩」



俺の数歩前を歩く彼女が、ふわりと髪を揺らして振り向く。



「好きです」



その答えは、がんばるって、ただそれだけ。