「ただいまー」
家に帰ると、私はお母さんの方を見もせずに一応挨拶だけして、自分の部屋へと向かった。
なんていうか……もう、一気に疲れた。緊張してたし、徒歩で通える距離といっても、小学校よりは距離があるし。
あぁ……これから先、本当にこんなんでやっていけるのだろうか。思わずため息が出る。
制服から私服に着替えてベッドに横になり、天井を見上げる。
「うぁ~……」
声にならない声が漏れた。今は何もやりたくない、動きたくない。
しかし、私にはやらなければならないことがあった。図書館に、本を返しに行かなくては。
春休み中暇だったので、近くの図書館で本を借りていたのだが、返却日が明日なのだ。
明日の帰りはもう少し遅いだろうし、となれば今日行った方がいいだろう。
とても面倒くさいが……仕方がない、か。
「本、本、っと……」
借りていた本を探し、それらをまとめると、図書館で使うカードと一緒にバッグに入れる。
バッグを肩にかけながら一階に下りて、お母さんに一声かけてから外に出る。
「ちょっと図書館行ってくるねー」
「分かったー、気をつけなさいよー」
「はーい、行ってきまーす」
玄関の鍵を開け、学校に行くのではないが学校指定の白い靴を履き、
「お母さーん、鍵かけといてねー」
最後にそう言い残すと、私は扉を閉めて図書館へと向かう道を歩き始める。
何度も通ったことのある道を、一人で黙って歩く。つい先ほどの下校を思い出して、少し心が痛んだ気がした。
――一人――。
別に仲間外れにされてるわけじゃないし、入学したばかりだから仕方ないけど。
自分から声をかけることができないんだから、新しい友達なんてそう簡単にできるわけないんだけど。
でもやっぱり一人でいるのは、どこか寂しいような気がして。
私は、気が付けば俯きながら、傍から見れば多分悲しげに、道を歩んでいた。
だから、曲がり角の向こうから人が走ってくるのが見えなかった。