三浦先生、かぁ……。若いし優しそうで、きっと生徒に人気があるんだろうなぁ……。

 ぼーっとそんなことを考えていたら、後の時間はあっという間に過ぎていた。

 朝お母さんに言われた通り、教科書が一通り配られ、全部に名前を書き、先生の話を聞いただけで今日は終わった。

 帰りのSHRも先生が仕切ってくれて、明日から日直がやってくださいとのこと。

 私が日直になるのはまだ先だろうし、前の人達のやり方を見てやればいい。それに、一緒にやるのが村井くんなら安心だ。

 その前に席替えがあったら駄目なんだけど……まぁ、そんなことも少ないだろう。

 大量の教科書を詰めたバッグはかなり重い。肩にかけると、ずっしりと重みがきた。

 千尋と帰ろうと彼女に声をかけようとすると、

「あ、宮本さん。また明日」

 背中に声をかけられた。振り向いてみると、私に向かって手を振っている村井くんの姿が。

 同い年の男の子に『また明日』なんて言われたことがなくて、何だか照れくさくなる。

「ま……また明日。じゃあね」

 顔がほんのり熱くなるのを感じながら手を振り返し、千尋の元へと向かう。しかし、

「おぉっ! その漫画超面白いよねっ! あたしも読んでるんだぁ~、分かる分かる!」

 前の席の女の子との話に夢中で、帰りの支度すら済んでいない状態だった。

 ここで声をかけるのはいかがなものか……。楽しんでいるところを邪魔するみたいで、申し訳ない。

 どうすればいいのか分からずその場で突っ立っていると、千尋が私に気付いたようだ。こちらを見て、あっと声をあげる。

 そして、手を顔の前で合わせると、ペコペコと何度も頭を下げてきた。

「ごっめん、蘭! 実はさっき、この子と一緒に帰る約束しちゃってさぁー」

「分かったー。じゃあ私、一人で帰るから大丈夫」

 せっかくできた新しい友達だもん、一緒に帰りたいよね。

 わがまま言うわけにもいかないし、別に私は一人でも寂しくないから、今日は一人で帰るとするか。

 何度も謝ってくる千尋に「平気だよ~」と言い残し、手を振って別れの挨拶をしてから、久しぶりに一人で教室を出た。

 たくさんの声が飛び交う廊下を歩き、階段を下り、昇降口へ。

 自分の靴を手にし、代わりに上履きをしまうと、私は外に出た。ほんわかと暖かい空気が、体を包んでくれる。

 本当に私は、東部中学校の生徒になったのだろうか――。実感が湧かない。

 まぁ、まだ入学したばかりだから、私の実感も今日の天気みたいにふわふわしたものなのかもしれない。

 もう少ししたら、また少し違った思いが浮かんでくるのかな。

 一人の帰り道。東部中のこと、友達のこと、これからの自分のこと。色々なことを考えながら、いつもよりゆったりとしたペースで、私は家へと向かっていた。