先のことを心配しながら教室へと入り、自分の席に座る。

 千尋の席へ目をやると、さっき話していた人なのか、前の席の女の子と喋っている。

 すごいなぁ、千尋は……私なんて、まだ全然……。

 思わずため息が漏れてしまって、隣の席の男の子に顔を向けられた。

 聞こえちゃったのか、何事かと思われちゃったかな……?

「あ、何でもない、です」

 同学年と分かっていても、今まで話したことのない人相手だと敬語になってしまう。

 隣の男の子は、そんな私に笑みを向けてくれ、

「そう。なんか悩んでるみたいだったから、大丈夫かなと思って」

 優しい言葉をかけてくれた。

「うん……大丈夫だよ」

「なら良かった。何か悩んでるのなら、俺に話してくれれば相談にのるよ。隣の席だし」

「うん、ありがとう」

「俺、村井拓斗(むらい たくと)。……名前、教えてもらってもいいかな?」

 村井くんっていうんだ……優しい人だな。それに、何となく、頼っても良さそう。

 名前を聞かれて一瞬戸惑ったが、ここで名乗らなくても結局彼は覚えることになるだろう。

 隠す必要もないし、いい人みたいだから、私はその場で自分の名を名乗ることにした。

「私、宮本蘭っていいます。えっと……よろしく」

「うん、宜しくね」

 私が軽く会釈をしながらそう挨拶すると、村井くんは手をあげてそれに応えてくれた。

 やっぱりいい人だ……。と、ついつい村井くんを見つめてしまう。途中で気が付き、ふるふると頭を振った。

 それから数分後、騒がしくなり始めた教室に、

「皆さん、おはようございます」

 先ほど体育館で見た、若い女の先生が入って来た。やはり五組の担任だったらしく、教卓の後ろに立つと、

「初めまして。私はこの五組の担任を任されました、三浦(みうら)です。担当教科は音楽です。今日から宜しくお願いしますね」

 丁寧に頭を下げながら、簡単な自己紹介をした。自然と拍手の音が生まれる。