「やっぱり大きいわねぇ」

 車から降りながら、お母さんが感心したように口を開いた。私もドアを開けて車から降り、

「大きいねぇ」

 ほぼ同じ内容を口にする。それしか言うことがなかった。

 もうあと一、二台ほどしか空きがなくなった駐車場を進み、クラスが張り出されている昇降口へと向かう。

 新一年生の昇降口を見つけ、私はそこへと小走りで向かった。そういえば、お母さんとはここで別行動になるんだっけ。

 保護者の人達は先に体育館へと入り、入学式の始まりを待つことになっている。

 私はお母さんに、ここまででいいことを伝えると、クラス名簿に視線を向けた。

 お母さんは特に何も言わずに、体育館へと入れる通路へと向かって行った。クラス名簿を見る視線を少しだけ動かして、私はお母さんの背中を見送る。

 お母さん、ここまで連れてきてくれて、ありがとう。

 明日からは自分の足で、この中学校まで登校するからね。

 今日から私は、東部中学校の生徒になるからね。体育館で、ちゃんとそれを見届けてよ。

 お母さんの背中はだいぶ小さくなり、私は視線をクラス名簿へと戻す。

 一組でもない、二組でもない、三組でもない。順番にクラスを見ていく。『宮本』だから、番号は後ろの方のはずだ。

 さて、私のクラスは一体何組――。

「おっ、蘭!?」

 自分の名前を必死に探していると、後ろから声をかけられた。この声には聞き覚えがある。私は後ろを振り返った。

 するとそこには、長い髪をポニーテールにして、活発そうな表情を浮かべている一人の女子が立っていた。

 彼女の名前は、杉田千尋(すぎた ちひろ)。私と同じ小学校で、よく一緒に遊んでもらった友達だ。

「あー、千尋! 久しぶり~」

「おうっ、久しぶり! 卒業式以来だね、春休みはのんびりできた?」

 そういえば千尋とは、小学校の卒業式以来会っていない。家も近いし会おうと思えばすぐ会えるのだが、私も千尋も特に会う用がなかった。

 千尋の問いに、私は「のんびりしてたよ~。千尋は?」と問い返す。すると千尋は、得意げに鼻の下をこすりながら、

「えっへへ~。まぁね、楽しかったよ。そういや蘭、あたしとクラス同じだよ」

 そう報告してくれた。何組だと尋ねると、五組だと返事が返ってくる。

 五組の名簿を見ると、確かに千尋と私の名前があった。よかった、千尋と一緒のクラスなら、少しは安心できる。