それから数分後。私は自室にて制服に着替え、学校指定のバッグを持って、鏡の前に立っていた。

 入学祝いにと、両親からプレゼントされた全身鏡。その前に立ち、格好はおかしくないか確認する。

 今は春なので、ブラウスの上に紺色のブレザーを着る。その下は、少し厚地の同色のスカート。

 夏服になったらもっと薄手のものになるらしいが、まだ見たことはない。買うのはこれからなのだ。

「よし、準備オッケー」

 おかしい格好ではないことを確認し終え、私はダイニングへと戻った。そこには正装に着替え終えたお母さんがいて、

「あら、似合ってるわよ。格好いいじゃない」

「そうかな? ありがと」

 私の制服姿を褒めてくれた。少し照れくさくって、それしか返す言葉が見つからなかった。

 仕事で入学式には来れないお父さんを家に残し、私とお母さんは東部中へと向かうことにする。お父さんの出勤時間は、もう少し後だ。

 助手席に乗り込み、バッグを後ろのシートへ投げる。シートベルトを締めて、前を見た。

 ……やっぱり緊張する。入学式、上手くやれるだろうか。クラスには、どんな人がいるのだろうか。色々な思いが、考えが、私の頭を駆け巡る。

「蘭、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

 運転席に座るお母さんが、アクセルを踏みながらそんなことを言った。同時に車が発進する。

「今日は式をやって、教科書もらって帰ってくるだけだろうし。時間も短いから、平気平気」

「うん……だよね」

 分かってはいるのだが、やっぱり緊張する。しかし、お母さんは軽い調子で笑いながら、ハンドルから左手を放し、その手で私の方を叩いてきた。

 お母さんへと顔を向けると、そこにはにっこりと笑みを浮かべたお母さんがいた。その笑顔に、少しだけ勇気づけられた気がする。

「大丈夫。蘭ならちゃんとやって来られるよ」

 そんなことを言われると、またしても照れくさくなって、

「わ、分かってるよっ!」

 私はややぶっきらぼうに返事をしてしまった。お母さんの手が肩から離れ、ハンドルに戻される。

 それから車内では特に会話はなかった。お母さんは車を走らせ、私は前を見つめているだけ。

 そうしている間にも、車は東部中へと近づいていき、

「着いたわよ」

 さほど時間は経たずに、私とお母さんは目的地まで辿りついた。車の中から中学校を見上げ、改めて、それが小学校より大きいことを感じる。