心理学なんて難しい内容の本、どうして蒼くんが読んでいるのだろう。

 意外とそういうのに興味あるのかな……? 心理学っていっても色々あるし、蒼くんは何に興味があるのだろう。

 気付くと私は足音を忍ばせ、蒼くんに気付かれないように近付いていた。

 何やってるんだろう自分、とは思ったが、何だかドキドキしてくる。さて、蒼くんは何を読んで――、

「……わっ!」

 蒼くんのことばかり見ていたからだろうか、足元の段差に気付かず、私は体勢を崩してしまった。

 転んだりはしなかったけれど、驚いたせいで声をあげてしまう。当然、蒼くんにも気付かれてしまった。

 声に反応して素早く後ろを振り向いた蒼くんは、

「うわっ、お姉さ――」

 知らないうちにすぐそばに立っていた私に驚いたらしく、びくっと肩を揺らし、次いで読んでいた本に目を落とすと、

「あっ、わっ……」

 わたわたと慌てながら、すごい勢いで本を閉じ、その場に立ち上がると、私へと体を向けて本を背中に隠すように持ち変えた。

 何か見られたくない本だったのだろうか? しかし、図書館にそんな本があるとは思えない。

 特に追求する気はなかったのだが、気にはなっていたので聞いてみることにした。

「蒼くん、何読んでたの?」

 すると蒼くんは視線を彷徨わせ、顔を赤くしながら、

「な……何でもないよ……」

 恥ずかしそうにそう言った。……うわぁ、顔赤くしてる蒼くん、めちゃくちゃ可愛い……。

「何でもないって……そんなこと言われると、余計気になるよ」

「本当に何でもないからっ!」

 言いながら、蒼くんへと手を伸ばす私。蒼くんはそれに気付き、素早く後退した。

 泣きそうな潤んだ瞳で睨まれても、全然怖くない。むしろ可愛い。もっとからかってあげたくなる。

 私の心にムズムズとした何かが湧き、

「ほんと……気にしないで、もう……」

 やや震える声で蒼くんにそう言われた時には、私の体は半ば勝手に動き出していた。