「ごめんっ、今行くね」

 慌てて蒼くんの元へと駆け、蒼くんの横に並んで歩き出す。

「お姉さん、入学式大変だったでしょ? お疲れ様」

「初めは緊張してたけど、実際やってみるとそんなでもないよ」

 蒼くんの問いに、私は答える。確かに緊張はしたが、お疲れ様と言われるほど疲れるものではない。

 「そうなんだぁ」と興味深そうに頷く蒼くん。私は、他にも色々なことを蒼くんに話してあげようと思った。

 蒼くんが中学生になるのはまだ先の話だが、興味がないわけではなさそうだし……。

「担任の先生は、若い女の先生だったよ。三浦先生っていうんだぁ」

「へぇ~、良かったね」

「うん。女の先生の方が、話とかしやすいだろうし。あとは……」

「他には?」

「そうそう、友達の千尋に、さっそく新しい友達ができたみたい。すごいよね」

「ちひろ、って……ああ、杉田さん。そうなんだ、早いね」

 千尋のことを『杉田さん』と呼んでいる蒼くんには、『千尋』では分かりづらかったようだ。

「他には、何かあるの?」

「ん~と……あとは……」

 何かあったかなぁと、学校での会話や行動を思い浮かべる。……そうだ、そういえば、あった。

 これは少し言いづらいことなのだが、蒼くんにならいいだろう。別に同級生でも、親でも親戚でもないわけだし。

 どんな話が聞けるかとわくわくした様子の蒼くんに、私は今日の嬉しかった出来事を話す。

「隣の席の人が、すごく気が利いて優しい人でね」

「えっ、女の人なの?」

「ううん、違うよ。男の子」

 女である私に優しくしてくれるのは、同性である女だと思ったのだろうか。蒼くんは首を傾げながら聞いてきたが、私は首を横に振った。

 こんな私にも優しくしてくれる男の子なんて、少ないよね……。村井くんと、蒼くんくらいだし……。

「びっくりした? びっくりしたよね。実は男の子なんですよ!」

 私が答えてから何も言わなかった蒼くんに、私は笑んでみせる。すると蒼くんは、

「ふぅん……男なんだぁ……」

 なぜか冷たい視線を私に向けてきた。えっ……ちょっと、何なのその視線……。ちょっと怖いんですけど……。