私の腰にまわされた腕に、一瞬ドキッとする。

 蒼くんは腕に少しだけ力を込めながら、低い位置で私を抱きしめてきた。

「ちょっ……なっ……そ、蒼くんっ!?」

「一緒に図書館行けるなんて、ぼく嬉しいよ! ありがとうお姉さん!」

「わ、分かったから、て、手を……」

 自分の顔が熱くなるのが分かる。……あれ? 顔が熱い? どうして……。

 思い返してみれば、こうやって蒼くんに抱きつかれるのは、決して初めてではない。

 昔からよく抱きつかれたりしていた。その度に、私は蒼くんの頭を「可愛い」と言って撫でたりしていた。

 でも今は……それどころではない、気がする。

 心臓が勝手に、とっくんとっくんと鳴っている。嬉しいけれど、何だか恥ずかしい。

 今までこんな感覚になったことがあるだろうか。いや……ない。

「蒼、くん……」

 不思議な気持ち……これは一体、何なのだろうか。私には、よく分からない。自分のことなのにね。

 蒼くんが腕を解くと、私の顔から熱は引いていった。

「じゃあ、ちょっと待っててね、お姉さん」

「あ、うん……行ってらっしゃい」

 家の方向へと走っていく蒼くんを見ながら、私は胸に手を当ててみた。

 先ほどまで、蒼くんに聞こえるんじゃないかってくらい高鳴っていた、心臓。

 今はすっかり落ち着きを取り戻し、鼓動の早さも正常になっている。

 あれは一体、何だったのだろう。生まれて初めての感覚は、私を悩ませてくれた。


 蒼くんが戻ってきたのは、それから数分後。蒼くんはランドセルと通学帽、それに名札を置いてすぐにまた走ってきたようで、息が乱れている。

「蒼くん大丈夫? ちょっと休もうか?」

 心配になってそう声をかけたが、蒼くんは笑顔でガッツポーズをしてみせる。

「へーきだよ! 心配しないで。さ、行こっか」

 これが小学生のパワーなのだろうか。あれだけ息を乱していたのに、次の瞬間にはケロッとしている。

 私も少し前までは小学生だったのだが……そんなパワーはなかった。これが、男と女の違い……なのかな?

 頭ばかりがさっきから色々なことを考えていて、どうやら足が進んでいなかったらしい。

「お姉さんはやくー!」

 進む道の先から蒼くんの声がして、はっとそちらを見てみれば、私に向かって手招きする蒼くんの姿があった。