「わっ!」

「ひゃっ!?」

 ドン、と胸の下当たりに衝撃を受け、私は二、三歩後ろにふらついてしまった。

 何かにぶつかったのだろうか……? 声がしたから、私より小さい子だとは思うんだけど……。

「ご、ごめん、大丈夫?」

 慌てて前を見て声をかけると、そこには頭を押さえながら、「いてて……」と声を漏らす男の子がいた。

 やっぱり、痛かったよね……。私がちゃんと前を見て歩いていれば……。

 男の子は痛みを振り払うかのようにふるふると頭を振ると、顔を上げてこちらを見た。

「いやっ……、ぼくの方こそ、よく見てなくてすみませ――」

 男の子の言葉は、そこで止まった。同時に、彼の目が少しだけ大きくなる。

 きっと私も驚いているのだろう。いや、別に驚くようなことではないのだが……。

「蒼くん!」

「お姉さん!」

 両者同時に口を開き、互いを呼んだ。私は男の子の名前を。男の子は、いつも私を呼ぶ時と同じように。

 私とぶつかってしまった男の子は、なんと隣の家に住む、蒼くんだった。

 星野蒼(ほしの そう)くんは、小さい頃よく私と遊んでくれた、私より四つ年下の男の子。

 今日から小学三年生になり、小学校中学年となったが、私からすればまだまだ可愛い。

 昔からよく、『弟みたい』といっては可愛がっていた。そのためか、気付けば蒼くんは、私のことを『お姉さん』と呼ぶようになっていた。

「蒼くん、今帰りなの?」

 蒼くんが背負っている水色のランドセルを見て、私は尋ねた。蒼くんはこくんと頷くと、

「うん。ちょっと帰りが遅くなっちゃって。お姉さんは?」

 私の質問に答えてから、今度は逆に問うてきた。

「私はさっき家に帰ったところで、今から図書館に行くの。借りてた本、返さなくっちゃって」

「そうなんだぁ。あ! そういえばお姉さん、入学おめでとう!」

「え? ……あぁ、えへへ、うん、ありがとう」

 蒼くんが笑顔と共にそんなことを言ってくれたので、何だか照れてしまう。入学祝の挨拶をしてくれるなんて、蒼くんは意外としっかり者だ。

 同学年の男の子より少し童顔な蒼くんだけれど、頭は回るのかもしれない。

 蒼くんは私が下げているバッグを見てから、

「ねぇ、ぼくも一緒に図書館行ってもいいかな? すぐランドセル置いてくるから」

 そんなことを言い出した。特に断る理由もないし、蒼くんと一緒に行けるのならそれはそれで嬉しいので、

「うん、いいよー。じゃあ私、ここで待ってるね」

 私は頷きながら返事をした。蒼くんは「わぁ」と声をあげると、嬉しそうな顔で、いきなり私に抱きついてきた。

「わっ!」

「ありがとう、お姉さん!」