今日は中学校の入学式。いつもより早く起きて、準備を始める。

 私、宮本蘭(みやもと らん)は、今日から中学一年生。徒歩で通える距離にある、東部(とうぶ)中学校生になるのだ。

 中学校の入学式というものがよく分からないので、とても緊張する。

 以前、体験入学という行事で、東部中に体験授業を受けに行ったことがあるのだが、それだけでは何も分からない。

 実際にその学校の生徒になってみないと、何も分かることはできないと思う。

 とはいえ大事な入学式を欠席するわけにもいかない。始めが肝心だと、よく聞く。

 朝食であるトーストを食べながら、私は様々なことを考えていた。

「蘭、そんなにゆっくりしてると遅刻するわよ。もっと急いだ方がいいんじゃないの?」

 お母さんからかけられた声にはっとし、時計を見る。確かに急いだ方がよさそうな時刻になっていた。

 残りのトーストを端からかじって食べながら、私は返事を返す。

「う、うん! 分かった、教えてくれてありがとう」

「いいのよ。……それにしても、蘭ももう中学生とはねぇ」

 お母さんがゆったりとした口調で、どこか懐かしむようにそんなことを言う。

 私の対面でコーヒーを飲んでいるお父さんが、それに続いた。

「ちょっと前までは、あんなに小さかったのに……。子供の成長は早いな」

「もう、何言ってるのお父さん」

 私は乾いた笑みを浮かべながら、食べ終わって何も乗っていない皿をキッチンまで運ぶ。

 それを受け取ったお母さんは手早く皿を洗い、それが終わると今度は身支度を整えるために自室へと向かった。

 扉が閉められる音が聞こえ、ダイニングには私とお父さんだけが残される。

 双方とも喋らないまま静かな時間が過ぎて、

「蘭」

 先に口を開いたのは、私のお父さんだった。

「なに?」

「入学式、頑張ってな」

 別に頑張るほどのことはしないだろう。そう思ったけれど、お父さんの真剣な顔を見て、

「……うん」

 私はしっかりと頷いておいた。それに頷きを返すお父さんの視線は、手元のコーヒーに向けられていた。

 またしても静寂がダイニングを包み、

「蘭ー、そろそろ身支度整えなさーい」

 それを破ったのは、今度はお母さんの声だった。