――だんだん。あの橋の下のところまで近づいてくる。
・・・・よし、ラストスパートっ・・・・
「風優」
突如後ろから声が聞こえた。
低いけれど、透き通ってストンと落ちてくるような声。
この声の主は一人しかいない。・・・けれど。
「ここで捕まるわけにはいかないのよ!!」
「いや、俺こそ今日こそ捕まえるからね」
全速力で土手を走る高校生2人。
周りから見てもおかしいようにしか見えない。
時折、階段を上る途中に人に会って「あら今日も?がんばってねえ」
と、声をかけられて手を振られる。
私は走るのに夢中で、そこを無視して突っ切る。
その後ろに「ありがとうございます」と声が聞こえた。
・・・やばいっ・・・・
「あ、風優」
私の家があるところまで階段を駆け上がり、いつもなら左折するところを右折する。
「階段じゃなくて・・・坂道なら・・・っ」
切れ切れになりながらも、なんとか全速力を維持する。
「・・・・はあ・・・」
すぐ後ろでため息が聞こえる。
・・・なんなのこの人ほんとに。
誰のせいでこんなになってまで逃げてると思ってんのよ・・・
ほんとは楽しんでるんでしょ・・・
「慧って・・・・ほんと・・・サド・・・」
「風優。ちょっと本気だすよ?」
すぐ後ろから呆れ気味の声。
本気じゃなかったわけっ!?