「・・・もう頭は、痛くない?」


私の頭を撫でながら慧は心配そうに言った。


「大丈夫。ずっと面倒見ててくれたんだね。ごめんね、ありがとう」



「や、・・・・っく・・・無事でなによりだよ」



欠伸を噛み殺して慧は体を起き上がらせた。



急に高くなる慧の背丈。



「う、うん・・・」



そのまま慧の腕に引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられた。



「慧・・・?」


心臓が早鐘を打っている。



おかしくなりそうだ。



「風優、すごく心臓が早いよ」



「・・・・~~っ」


「顔も真っ赤だし・・・。」



慧は狡い。


狡すぎる。




いつか反撃してやるんだから。



「なんで赤いか知ってるくせに。」


ぼそっと小さい声でつぶやくと、慧はわたしを抱きしめる腕をより強めた。



「家まで送るよ」


ふふっと笑う声とともに上から降ってくる声。



「ん、ありがとう」


そういうと慧は私から体を離して鞄を持ってきてくれた。



「ほんとに、ごめんね。迷惑いっぱいかけちゃって」


落ちてくる髪を耳にかけながら慧に謝る。


「大丈夫。それに困ったときは俺が助けたいし」



・・・それ、ほんとに狙ってるのかな。


「・・・・・」



「風優?」


「あ、うん。ありがと。」



「うん。」


会話が終わり、無言で慧の後ろについていく。


大きい玄関を出て、顔に当たったのは生温いじめじめした風。



「そろそろ梅雨かな」


家の鍵を閉めている慧に言うと、


「かもね。風優は梅雨は好き?」


慧からは質問が返ってきた。


そのまま慧が歩き出す。私もその後についていくと、いつの間にか慧が隣に来ていた。



歩幅、合わせてくれてる。



「どうしたの?風優」


下を向いて黙ったままの私を心配したのだろう、慧が覗き込むように私を見つめる。



「だ、大丈夫。梅雨は好きよ。でも髪の毛がくるくるするのは嫌い」


私、くせっ毛だから。と顔を合わせないように慧に言う。


「慧の髪、まっすぐでさらさらでしょ?うらやましいなあ」


「俺は風優と同じがいいな」


・・・・この人は。


ほんとに狙ってるんではないだろうか。


・・・試してみようかな。