「……次は、夏休みや」

良介が今にも泣きだしそうな愛を見つめて、頬を優しく撫でる。

二人のなかに甘い空気が漂うなか、ただ他の二人が二人の甘い空気を壊す。

「良介ぇえ!何で海外なんだよ!日本にいろよ!」

「そぉだよっ……寂しくなるっ……」

上京し、関東へいるはずの友里亜と修も来てくれて良介を送り出そうとしているのだ。

修は東京へ行き、時間がたったために標準語になっていて、その言葉遣いに聞き慣れるのが良介と愛にとってやっとであった。

修も愛と同じように泣きそうになっている。
友里亜は既に泣いており化粧が少し崩れている。

「なんでや、お前ら……夏休みにもんてくるわ。そんときは連絡するから空けとけよ」

「当たり前だろ!早く帰ってこいよ!」

修が勢いよく良介の背中を押す。
その勢いで躓きそうになるが、持ちこたえて今度は愛の方を見る。

「愛!すぐやで!夏休みはいっぱい遊ぼうな!」

にかっと笑う。
その笑顔に愛は我慢していた涙を溢れさせてしまった。

時間がなく、良介は愛の涙を拭うことなど出来ず悔いを残したまま旅立ってしまった。

「愛ぃ……」

彼女以上に泣いている友里亜を見ると、さらにもらい泣きをしてしまう愛。
送り出すときは笑顔でいたい、とどこかのドラマや映画にありそうなことを思っていた愛にとって、良介の旅立ちをいざ当日迎えてしまうとすごく不安で息苦しくなってしまう。

友里亜に必死に抱きついて涙をぽろぽろと溢せば、先程まで泣いていた友里亜はぽんぽんと愛の背中を優しく撫でる。

帰ってくるのは夏休み、それまでにちゃんと成長している自分を見せなければいけない、しかし今だけは泣いていたい、と思う愛であった。