「影送り?」

「小さい頃にやったでしょ? 覚えてない?」

「覚えてるけど……なんでやらなきゃならないのかわからないんだけど」

「それはね、ここに絶好の青空があるからだよ」

「はあ?」


呆れてるのか面倒なのか。

郁人の眉間に僅かにシワが寄った。

私はそんな郁人に構わず郁人の横に並んで立つ。


「はーい、じゃあ小さい頃に戻ったつもりで……」


──と、昔の私たちを再現してみようと考えたけのだけど。


「えっと……手、繋ぐ?」


いくら幼なじみで親しいからといって、昔のように自然と繋ぐには気恥ずかしくて。

だから確かめるように問いかけると。


「なっ……べ、別に繋ぐ必要ないじゃん」


郁人は面食らったように耳まで真っ赤にして拒否した。




「そ、そうだよね。何もそこまで昔の再現しなくてもいいよね」


アハハと笑い足元に視線を落とす。

どうしてか、拒否されたことが少し寂しくて、悲しくて……痛くて。

私はそれをごまかすように、元気な声を出した。


「それじゃ、10数えるね」


郁人は何も答えなかったけど、私と同じく足元から伸びる影を見つめる。


「いーち、にーい」


じっと見つめる二つの影。


「さーん、しーい」


無邪気だったあの頃は私の方が少し高かった背丈が……


「ごーお、ろーく」


今では、頭ひとつ分、郁人の方が高くなっている。




「なーな、はーち」


さっき感じた感情が、どこからくるものなのかわからないまま……


「きゅーう、じゅうっ」


私たちは、どこまでも広がる青空に、二人の影を送った。

それは、当然だけど昔とは違う大きさで。

手も繋がれず、無邪気さもなく、ただ、懐かしさと少しの寂しさだけがあった。


「……郁人、身長伸びたね」

「まあね」


まだ、ぼんやりと空に浮かぶシルエットを眺めながら会話する私たち。


「昔は私の方が高かったのに」

「昔の話だし」

「男の子なんだね」

「……まあね」

「ちょっと寂しいなぁ」


思わずこぼれ落ちた本音に、郁人が私を見る気配がした。




「何が」


問われ、私はいまだ空を見つめたまま答える。


「郁人が、私から離れていっちゃうみたいでさ」

「…………」


郁人からの返事はない。

空に浮かんでいた二人のシルエットも、もう消えてしまった。

昔、郁人が喜んだこの魔法は、本当に短い時間しかかからない。


写真にも動画にも残らず

ただ、心の中のみにあるだけ。


だからこそ、大切に。

心の中にしまい続けたいと思う。


郁人との思い出を。




「消えちゃったねー。そろそろ行こうか。一緒に帰る?」

「……うん」


頷いたのを聞いて、私が先に一歩を踏み出した……

その直後。


「──奈央」

「んー?」


呼ばれて、振り返れば。


「寂しがる必要なんてないよ」


真面目な顔をして私を見つめる、郁人がいた。


「俺は変わらないから。ずっと、変わってない」


真剣味のある声で言われて。


「それは、なに?」


知りたくて聞くと。


「……まだ、秘密」


ちょっと困ったように視線を泳がせた。




「ええーっ? 気になるじゃんっ」


抗議する私を見て、郁人は小さく笑った。

最近では滅多に見れない郁人の笑みに、私の心が暖かくなる。

まるで、今日の気候のよう。

郁人の表情が和らぎ、私を見る瞳もどこか穏やかで。

彼の唇がまた動き出す。


「じゃあ、そのまま気にしてればいいよ。そんで、待ってて」


春風が吹く。


「いつか必ず言うからさ」


桜の花びらを乗せて。


「だから……」


春の香りを運んできた刹那。












──できれば、誰のものにもならずにいて。












聞こえてきた幼なじみの漏らした秘密に


私は瞳を瞬かせた。











- fin -





このお話は、以前、お友達の部誌にゲスト参加させていただくことになり執筆したものです。

テーマは幼なじみ以上、恋人未満。
両思いになる手前のくすぐったい時期を書きたくてニヤニヤしながら書いてました。

ちなみに、郁人みたいな男の子を初めて書いたのですが、分類はツンデレでOKなんでしょうか?
よくわかんないけど、個人的に可愛らしくて好きな男の子キャラとなりました。うふふ。


ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました★




2014.12.28 和泉あや

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