「あら。意外なお客さま。
今日は土曜日なのにお仕事?」



ドアを開けた俺の目の前に立っていたのは、インテリアデザイナーの柿本さん。


随分恐縮しながら頭を掻いている。



「すみません。急に現場に来なきゃいけなくなって…。
寄らせてもらったら貸し切りだったから帰ろうと思ったんだけど、何だかものすごく人の良さそうな方に引き留められてつい…」



柿本さんは2か月ほど前にここにやって来てから、川越に仕事がある度に顔を出してくれている。


何となく敬語だったり、がっつりタメ口だったりとお互いの距離感はフラフラしているが、同い年だということも判明して今ではすっかり俺のオトモダチだ。



「入りなよ。
今日は身内みたいな集まりでさ。
さっきの人が初めて父親になったお祝いなんだよね。

今から始めるところだから柿本さんもどーぞ?」



「いやいや! 滅相もない。

そんな素敵な会に俺のような者が…。」



そう言いながら首を伸ばして店内を覗き込み、近藤さんを囲んで賑やかに話している一団に



「何か楽しそう……」


羨ましそうに呟くから笑ってしまう。



「だから一緒にどうぞって。

俺もちょうど柿本さんに相談あったし、

今日はナポリタンも作る予定だし」



「え?! シンタくんナポリタン作ってくれるの? やったー」



聞きつけた千波が駆け寄ってきて俺を見上げてから柿本さんに向かって
「よろしければどーぞ?」なんて言いながらにっこり笑っている。



「じゃあ……お邪魔しちゃいます」



柿本さんは千波の笑顔に顔を赤らめながら、今度は躊躇なく店に入ってきて千波に案内されるまま皆の輪に入っていく。



「あらら? ……ちょっと?」



そんな柿本さんの様子に少々拗ねたりしながら、俺は柿本さんの分のグラスを取りにカウンターに戻った。