「………」


「………………シンタくん?」



いつまでも私から手を離さずに、ただ私を見つめ続けるシンタくんに今までにない違和感を覚える。



その表情はどう表現したらいいのだろう?


今までこんな表情を見たことがない。


そこから読み取れるのは、戸惑いと……。



混乱?苦悩?



何で急にそんな顔を見せるの?



私には全く心当たりがない。



踊子さんとの話を聞いてしまったことは絶対にバレてないと思うし。





「……君ほどじゃないけど、俺もまだ若いの。
年寄り扱いしないでくれる?」


シンタくんがそう言って私から手を離したのは、随分時間が経ってからのように感じられた。



「そういえば、さっき清海に聞いたんだけど、これから八王子に行くんだって?」



やっといつもの調子を取り戻したようなシンタくんに、私は自分の中のモヤモヤを押し隠して答えた。



「うん。雪のとこに遊びにいってくる。
乗換が多いからってお兄ちゃんが心配してうるさくてさ。
いつまでも子供扱いで頭きちゃうよ」


「いや、その心配はよく分かる。
お前そそっかしいから。
上り線と下り線間違えるなよ?」


「もう!2人してバカにしないでよ。
大丈夫だもん」



横を歩くシンタくんを軽く突き飛ばす。


それに対してわざと大きくよろめいてみせる。



やっといつもの調子を取り戻した私たちは、新緑のアーチの下を並んで歩いた。