その日の放課後、俺は花音といつものように通学路を歩いていた。


運動オンチの花音とスタミナのない俺は部活など特にやっていなくて、帰りも一緒に帰っている。


「今朝、佐野君がおはようって言ってくれたでしょう?私、それだけで今日一日幸せだった~」


たったひと言、挨拶を交わしただけで幸せだと?


いいねぇ、お前は。


幸せのハードルが低くて。


「お前、佐野の前だと無口になるよな」


女子の前じゃよくしゃべるし、下品な事をして笑わせているのを俺は良く知っている。


「だって、あんなにかっこいいんだよ?

顔見たら緊張しちゃって、何話していいかわからなくなるんだもん」


「へぇ~」


そういうもんなのかね。


「告白とかしねーの?」


無謀だけど。


「やだ、しないよ。するわけないじゃん!憧れてるだけ」


憧れ…ね。


まぁ確かに恵介は見た目だけじゃなく、性格もいいからな。


「佐野君にはさ、そのうち可愛い彼女が出来るのよ。

その時、きっと私は泣くんだわ~」


思わずケッと舌を出した。


泣くのは勝手だけど、俺を巻き込むのだけはやめてくれ。