「ちょっと、花音!佐野君と普通に話せたじゃん」


俺と恵介の会話をそばで聞いていた花音の友達が、突然ベシッと俺の背中を叩いた。


「は?」


なんだよ、それ。


つうか、背中が痛いんですけど。


「いっつも緊張して何も言えないくせに、今日はすごく冷静だったじゃない」


俺の中じゃ普通過ぎるくらい普通の会話なんだけど、コイツらは違うのか?


「よかったねー」


にっこり笑う女子。


なんなんだ?


何をそんなに喜ぶことが?


女って、よくわからない……。


始業のチャイムが鳴って、俺は席に着いた。


3日も休んだから、授業がわからなくなっていたら困るな。


あとで、先生に聞きに行こう。


そんなことを思いながら、アイツのノートをペラペラとめくってみた。


うーむ。


字は綺麗だけど、これはただ先生が黒板に書いた字を、そのまま書き写しただけって感じだな。


話とか全然メモしてないし。


だから、成績が悪いんだよ。


「次、えーっと美倉。

次のページ、上から読んでくれるか?

美倉?おい」


『ちょっと、花音!

何ボーッとしてんの?

呼ばれてるわよ!』


隣の女子に声をかけられて、ハッと我に帰った。


そうか。俺が呼ばれているんだ。


意識してないと、自分が誰だかすぐに忘れちまう…。


「はい…」


俺は立ち上がって、英語の教科書を読み始めた。


まだ習ってないところだけど、まぁ別に読めるからいい。


「はい、そこまで」


先生の合図で、俺は席に座った。