「俺…、思うんだけど。

こういうつらい時こそ、普通は恋人に頼ろうと思わない?」


「え…?」


「俺は一番の親友を。

花音ちゃんは大切な隣人を失いかけているのに。

どうしてそんな時に、俺を思い出してくれないの?

こんな苦しい時にこそ、恋人同士ならずっとそばにいて。

お互いを励まし合って、一緒に泣いたりするはずなのに。

でも、花音ちゃんはそれをしようとはしなかった……。

こうして会えた今でも、花音ちゃんは平気そうなフリをして、俺を頼ってはくれない。

それって、すごくつらいことだよ」


「恵介君……」


言われてみれば確かにそうで。


私はこの数日、恵介君と話したいと思わなかったし。


正直、ほとんど思い出すことはなかった。


「花音ちゃんは気づいてないんだよ。

花音ちゃんにとって、海司はただの隣人なんかじゃないってことに」


「な、なに?どういう意味?」


「俺からそれを言わせるの?

さすがにそれくらい自分で気づいてよ。

俺に言わせるなんて、残酷過ぎる…」


少し伸びた前髪をスッとかき上げる恵介君。


そんな彼の寂しそうな横顔を、私はただじっと見ていた。