「お母さん、落ち着いて!」


「綾乃、落ち着きなさい!」


海司の病室に着いた途端、海司のお父さんと美空さんの声がドア越しに聞こえて来た。


「どうしたんだろう?」


「と、とりあえず中に入る?」


なんだか怖かったけど、私と恵介君はそっと病室の扉を開けた。


その扉の向こうには、いつものようにベッドで眠る海司がいて。


その海司の足元に、床にしゃがみ込んで泣いているおばさんの姿が見えた。


「あ、花音ちゃん…。佐野君…」


気まずそうに私達の顔を見る美空さん。


おじさんも複雑そうに私達に目を向けた。


おばさんは私達が来たことに気づいているのに、まだ声を上げて泣いている。


あまりに張り詰めているこの病室の空気に、


やっぱり今は入るべきじゃなかったと後悔した。


でも私は、おばさんの心の病のことを知っている。


だから、おばさんが情緒不安定になったところを見たからって、別に驚きはしない。


もう1ヶ月近くも海司が目を覚まさないんだもの。


また精神的に弱くなったって、仕方のないことだ。


「あの…。私、今日はもう失礼しますね。

これ、お見舞いの花です」


そう言っておじさんに花を渡そうとしたその時だった。


「花音ちゃん」


突然、おばさんが私を呼んだ。