気がつけば、暦は3月になっていて。


私は卒業するサッカー部の先輩達を部員みんなと見送ったり。


範囲の広い学期末試験を、半泣きになりながら受けたり。


放課後は部活に出て、大量の洗濯物を片付けたり。


そんな毎日を過ごしていた。


頬を撫でる風は、どんどん暖かくなっていくのに。


私の日常の中に、


海司の姿はまだなかった。


「花音ちゃん、その花可愛いね。何の花?」


病室に向かう通路で、恵介君が言った。


「これね、わざびの花なの」


「わさび?わさびってあのわさび?」


「うん」


「へぇー知らなかった。わさびってこんな花が咲くんだ。

っていうかこの花、なんか海司に似てるね」


恵介君がそう言って、クスッと笑った。


「確かにそうかも?

見た目は綺麗なのに、食べると辛いもんね」


「そうそう。美形なのに毒舌、みたいな」


二人で、はははと笑った。


でもね、この花を選んだのには、ちゃんと理由があるの。


わさびの花言葉は“目覚め”。


こんなの気休めだってわかってるけど。


海司に早く目を覚まして欲しいから。


お父さんに無理に頼んで、わざび農家まで連れて行ってもらったんだ。


一面に広がるわざび畑はどこまでも純白で美しくて。


本当に


海司みたいだったよ……。