「花音ちゃん」


おばさんが優しい声で私を呼んだ。


「前もそうだったわね」


「前?」


前って何?


「事故で海司が2ヶ月も眠っていた時。

花音ちゃん、毎日のように病院へ来て。

今みたいに、海司に何度も声をかけてくれたよね」


「え……?」


それって……。


「あの時に私、思ったの。

花音ちゃんって、本当に優しい子だなあって。

あの時花音ちゃんが沢山話しかけてくれたから。

だから海司、目を覚ましたのかもしれないわ」


うそ…。


海司はあの時、寝ている私に毎日会いに来て。


ずっと声をかけてくれていたの?


そんなこと、ひと言も言ってくれなかったじゃない。


「だから今回もきっと大丈夫ね。

海司はすぐに目を覚まして、元気に復活するわ。

ありがとね、花音ちゃん」


「おばさん……」


海司…。


私は海司のことを知っているようで。


実は何もわかっていなかったのかもしれない。


海司の表面だけを見ていたのかもしれない。


本当の海司は、私が想像する以上にずっと優しい人なんだ……。