「あ、そうだ。昨日はありがとね。

無理言ってごめんね。

でも、すごく楽しかったね」


「うん、そうだね……」


どうしよう。


なんだか唯の目が真っ直ぐ見れない。


昨日の夜の、あの出来事を思い出して…。


海司とキスしちゃったなんて。


絶対に誰にも言えない。


「ねぇ、花音」


「へっ?」


自分の心の声が唯に聞こえたのかと思って、ドキッと心臓が跳ねた。


「私ね、立花君のこと、やっぱりあきらめようと思うの」


「えぇっ!なんで突然?

昨日はすごく楽しそうにしてたじゃない」


海司にコートをかけてもらったり。


スヌードだって貸してもらって。


唯、幸せそうな顔をしていたのに、なんで?


「確かに途中までは、すごく楽しかったよ。

立花君は優しいし、色々話せて楽しかった。

だけどさ…」


「だけど?」


「午後から別行動にしたじゃない?

その頃から立花君、急に物静かになっちゃって。

一度はぐれて、また会えてからは。

もう…ほとんど心ここにあらずって感じで。

私のことなんて、全然見えてないみたいだった…」