ドンッと壁に手を突いて、私を追いつめる海司。


「痛い…っ。海司、手が痛いよっ」


さっきから掴まれている手首が、痛くてたまらない。


「黙れ…」


チラリと部屋の方に目をやると、リビングは真っ暗で、誰も帰って来ていないみたいだった。


「海司、ごめん。私が悪かった。だから、この手を離して」


どうしよう。


海司を本気で怒らせちゃったんだ。


「ごめんって何?」


海司の顔が近過ぎる。


耳元で聞こえる声に、背中がゾクゾクする。


「いろいろ、言ったから。

話して欲しいとか、こっち向いてとか、しつこかったから。

だから海司、怒ってるんでしょう?」


海司は、私の手首をぎゅっと握ったまま。


そして彼の反対側の腕は、肘から指先までピッタリと壁に着いた状態だ。


「へ、変なことも言ったもんね。

唯にばっかり優しくしてーとか」


「あぁ、言ったな」


「だって、なんか海司らしくないんだもん。

基本海司は、私とか私の友達のこと、女とも思ってなかったでしょ?

それなのに急に女の子扱いして。

それが、すごく変でいやだったんだもん」


「いや…?」


「いやだよ。そんな海司、見たくない!」


そう言ったら海司は、急に頭を下げて。


はぁと長い溜息をついた。