「だ、だめっ!」


ドンッと。


繋いでいない方の手で、恵介君の胸を押し返す。


すると恵介君が、驚いた顔で身体を後ろに引いた。


恵介君はみるみる顔が赤くなっていって。


私も多分、耳まで真っ赤になっているだろうと思われた。


「あ、あの…、ごめん。

あそこに海司がいて……」


「えっ?」


私が指差す方向を振り返る恵介君。


「うわっ、ホントだ!

海司ー、今の見てたーー?」


恵介君は海司に声をかけた。


「おう、見たー。

ごめんなー。別に見るつもりはなかったんだー。

たまたまここを歩いてただけー。

それよか、佐久間見なかったー?」


「見てないよー。

見てないよねぇ?花音ちゃん」


「う、うん…」


「はぐれたんだー。

俺、あっちの方探してくるわー。

どーぞ遠慮なく続きやってー」


「アホかー!もう出来るかよー」


照れているのを隠すように、恵介君がクスクスと笑う。


「じゃあ、後でなー」


そう言って海司は、私達に背を向けて行ってしまった。


その後ろ姿を、私はじっと見ていた。


「はー…、タイミング悪…。

とりあえず戻ろうか、花音ちゃん」


「う、うん…」


私と恵介君はその後、繋いでいた手も離してボート乗り場へと戻った。