"家族"は、私の憧れだった。

帰る家があって、そこで誰かが待っていてくれて、私の居場所がちゃんとある。

家族のカタチはどんなのでもいいから、

愛情がある暖かい家族がいい。


そう幼い頃から思っていた。



「…だからさ、聞いてる泉?」


「あ、うん。ごめん聞いてるよ」


とある大学の学食で

私と向かい合って座る、梨々子ちゃんが私に話しかけている。


「初デートでさ、ファミレスって

なめてるよね?おかしくない?」


梨々子ちゃんは、怒っている。

こういう時は私は"うん"とか"そうだね"と言わないと

後に面倒くさくなることを知っている。


だから、本当は梨々子ちゃんの言う

初デートでファミレスのおかしさが分からないまま

適当に相槌を打った。


「あぁー。もう別れようかなー」


このセリフを、私はこの半年で3回聞いた。



「ってか、あたしばっかり話してるけど

泉はないの?」



いきなり、私の名前が出てきて

心臓がドキっとした。


「ないって、……なにが?」


その言葉に、梨々子ちゃんはムッとした顔をして

「この流れでわかるっしょ。

彼氏よ、かれし!」


長くてキラキラした爪の梨々子ちゃんが

iPhoneをいじると、とても画になるなと

つくづく思う。


「……私は、ないかな」


そう言って残り少しのミルクティーを

飲んだ。


「ふーん」


梨々子ちゃんはつまらなさそうに

小さく欠伸をすると


「ごめん、あたしバイトの先輩に

誘われたから行ってくるね」


高いブランド物のバックを手に取り、立ち上がって

バイバイとも、またねとも言う事なく


長くて綺麗な足を一歩踏み出して

私に背中を向けて去ってしまった。


大学に入って初めてできた友達が

梨々子ちゃんだったけど


私は梨々子ちゃんと、きっと気が合わないんだと思う。


価値観も育った環境も


全く正反対だし。


でも、なぜ梨々子ちゃんは

こんな私と一緒にいてくれるんだろう。


不思議に思いながら、氷がとけて

水っぽくなったミルクティーを飲み干した。