恐る恐る左側に目をやると、俺が起き上がったことにより、少し捲れた布団の隙間から綺麗な背中と長い髪が目に入る。


 フラれた腹いせに、適当な相手と寝てしまったのかと思っていた。


 ……違う。


 ……ウソだろ。


 ……待って、こんなこと。


 その、長く美しい黒髪は、俺が長年恋焦がれた、美咲ちゃんのものだった。


 細い肩、綺麗な背中、俺が思い描いていた、理想通り。


 あーくそ俺、なんで覚えてないんだよ。


 いや、そうじゃない、今注目すべきところはそこじゃないんだ。


 これは、……親友の、聖也の彼女と、浮気したことに、……なる、よな?


 俺は直ぐにベッドから降りて、美咲ちゃんに布団をかけ直すと、とりあえず散らばった服を身に纏った。


 ……どうしよう。


 美咲ちゃん自身、ちゃんと覚えているんだろうか。


 いやでも美咲ちゃんがまさか、ううう浮気なんて、するだろうか。


 あの清純で、汚れの知らないような、美咲ちゃんが……。


 考えてみたけれど、考えたところでわかりそうにもないので、とりあえず一生に一度あるかないかの大チャンスということで、美咲ちゃんの寝顔を覗いてみることにした。


 なるべく、音をたてないように、そーっと。


 やっぱり美咲ちゃんは、寝顔も綺麗だった。


 閉じた目に、長い睫毛、雪みたいに真っ白で、綺麗な肌……。


 つい、触れてみたくなる。


 ずっと好きだったんだ、ほんとは聖也より、ずっと前からさ。


 少しくらい……。


 伸ばした手で、美咲ちゃんの柔らかな髪に触れた。


 少しくすぐったそうに、美咲ちゃんが表情を緩める。


 俺の中ではありえない光景に、少しばかり泣きそうになった。