盗賊から、主である姫を救う。
 雪也のルックスからして、きっと絵になる救出劇になったに違いない。

 本来、女性はそうして大事にされるものである。

 どうせ召喚されるなら、苑依姫みたいな立場がよかった。


 東雲の感覚は絶対におかしい。
 肉体労働に女子高生を選ぶ神経がわからない。ポジションからして間違っていると指摘するべきか。



 などと考えを巡らせれば、ふと雪也が足を止めた。

「申し訳ございません。ここから先は【蒼龍】様のみで、お願いいたします」

「えッ?」

 思わぬ申し出に面を食らう。
 東雲を見ると、面倒くさそうに頭を掻こうとして(烏帽子があることを思い出して)やめた。

「そういう決まりなんだ。理由は、さっき説明しただろ」

「でも……」

 柚月は戸惑う。

 事情聴取は柚月ひとりでやることは知っていた。その理由も聞かされている。

 ただし、室外のすぐ側に東雲がいると思い込んでいた。
 今まで、この【月鎮郷】で彼と離れることは一度もない。

 急に心細くなる。


 しかし、悲しいかな。
 相手は、そんな繊細な乙女心を理解してくれるはずがない。