「全く、余計な時間を食ったじゃないか」

「んも~、そのことは悪かったってば」

 渡殿を歩きながら、ぶつくさ東雲が文句を言ってくる。

「おかげで、彼らを引き取らなくちゃならなくなったし……」

 それについては柚月も返す言葉がない。



 あとで、知ったことだが。

 先ほど貴族に因縁をつけられた少年は孤児だった。
 他にも数名、身寄りがいない子供が集まり、物乞いや盗みで飢えをしのいでいたという。

 治安維持の役目を担う東雲が放っておけるはずもなく、自身の邸に引き取ることにした。

「あの姉弟の話も途中だったし……従者たちに道案内をさせてしまったから、寄り道ができなくなった。何から何まで、君のせいだぞ」

「最後のは、あんたの都合でしょッ!?」

 柚月は、たまらず叫んだ。

 孤児や姉弟は従者をお供に、ひと足早く邸へ戻した。何故か、全員。

 宗真への事情説明や彼らを迎える準備のためだろうが、それを決めた本人に愚痴られては柚月も我慢できない。

 いわれなき中傷に全力で抵抗すれば、くすりと笑声が聞こえてくる。

「あ、失礼」

 犯人は、前を歩く爽やかな好青年だった。