「たかだか百姓の分際で、この私を愚弄するとは……無礼なッ!」

 たまらず吐かれた怒声に、柚月はかちんときた。



『無礼』



 この世界に来て、幾度なく吐かれる言葉。

 柚月には理不尽な単語にしか思えなかった。


 彼女が、すっと表情を消した瞬間。
 この男を無傷で帰す気はなくなった。



「黙りなさい」

「なんだと、この小娘が……!」

「黙れって言ったでしょうがッ!」



 ゴッ!
 柚月は渾身の頭突きを食らわせた。

 男は白目をむきかけたが、両頬を平手打ちして意識を保たせる。

「たかだか人の税で食べてる貴族が、どんだけ偉いってのよ!? 自分でお米も作ったことないくせに……子供たちに笑われるくらい、ちょっと照れるぐらいで許しなさいよッ!」

 ビシバシと容赦ない往復ビンタに、側にいた従者たちが騒ぎ始める。

「殿ッ!?」

「おっと! 動かないでよ、お供さんたち!」

 柚月が大声を張り上げる。


 余計な茶々は入れられたくない。

 人質の意味を込めて、男の胸ぐらを掴んで突き出せば、

「やれ、おまえたち!
 この小娘を早く何とかせんかッ!!」


 顔面を赤く腫らした当人が叫ぶ。