なので、目的地に辿り着くまで柚月はもの凄まじく退屈だ。
東雲が子供たちを相手にしている間、何か暇潰しはないかと、きょろきょろと周囲を見回す。
運がよければ、近くで遊ぶ子供や野菜売りの女の子たちに話し相手になってもらえる。
あとで東雲に『むやみに話しかけるな』と嫌味を言われるが、知ったことか。
他人を好き勝手に呼び出すのだから、こっちも好き勝手にしてやる。
白壁が続く直線的な道と、等間隔に並ぶ曲がり角。
碁盤目のように整備された都は、まさに平安京を思わせる。
初めはわかりやすくていい街だと柚月は思ったが、実際は似た景色が続いて迷いやすい。
通りを一本間違えただけで、目的地から大きく離れてしまう。
はぐれないように、つかず離れずの距離を取って都の探索をしていると。
向こうの通りで誰かの怒鳴り声が響いてくる。
「誰だ、さっき私を笑ったのは!?」
牛車の傍らに立ち、激昂するのは中年太りの男性だった。
直衣姿から察するに貴族なのだろう。
けれど、全身から発せられる不機嫌な空気と横柄な態度は、とても上流階級の人間には見えない。