【月鎮郷】の仕事で、護衛はもっとも退屈だ。
特に東雲のボディーガードととなると、延々とヤツの側に張りついて、周囲を警戒しなければならない。
まぁ、東雲を襲う酔狂な人間はいないが、道を歩けば何故かヤツは人に捕まる。
もちろん危害を加えられるという意味ではなく、向こうがあれこれ話しかけてくるのだ。
大抵が貧しい子供たちで、自分たちの苦しい近況を訴えてくる。
今日は、仲のいい姉弟だった。
都の外れに正体不明の巨石が立ったとかで、その場所が彼ら両親の畑らしい。
土地が石に潰されたため、作物が収穫できないとふたり手を繋いで涙ながらに語った。
東雲が都を歩く度に、そんな話を聞かされる。
ヤツもいちいち立ち止まって彼らの言葉に耳を傾けるものだから、ちっとも前へ進まない。
基本的に、移動が徒歩というのもある。
貴族なら牛車だろうが、諸事情により東雲邸では使わなくなったらしい。