「ねー、お供の準備なんかいいってば。東雲とちゃちゃっと行って来るさー」

「すみません。お師匠さまに何かあったら、一大事ですから」

 背後から聞こえる声に、柚月はむっと唇を尖らせた。

 今、広い局の真ん中に柚月は座っている。
 眼前にある掌ほどの小さな鏡には、不機嫌そうな自分の顔が映っていた。


「私がヘマすると思ってんの?」

 あからさまに拗ねてみせると、宗真の笑声が聞こえてくる。

「いいえ、滅相もない。お師匠さまも久々の準備に手間取ってるだけです」



 苑依姫の邸を訪ねる日。

 大抵は用件のある場所に東雲が呼び出すのだが、相手が大貴族だと勝手が違うらしい。
 いつもより準備に時間がかかっている。



(昨日、呼び出して説明したんだから、次はギリギリに召喚すりゃいいでしょうに)



 そんな風に思いながら、柚月は暇を持て余している。
 見かねた宗真があれこれ構ってくれたが、なかなか素直になれなかった。