「柚ー。ご飯だぞー」

「はーい」

 部屋の外から呼ばれた声に返事をする。
 ドアを開ければ、鼻をくすぐる匂いに空腹を思い出した。

 階段を降りてダイニングに向かうと、エプロン姿の大柄な男と鉢合わせになる。

「さぁ、早くお座り。今日は、柚月の好きなアスパラの牛肉巻きを作ったんだ」

 正体は、兄の柾人(まさと)である。

 にこにこと上機嫌で、椅子を引いてくれた。


 テーブルには、他にも筍の土佐煮、絹さやのごま和え、小松菜と油揚げの味噌汁、山菜おこわと手の込んだ料理が並んでいる。



「わー、おいしそう……」

 柚月が顔を綻ばせ、吸い寄せられるように食卓に近づくと、兄が不意に尋ねてくる。

「そういや、今日はどうした? やけに遅かったな」

 何気ない言葉に、柚月の肩がビクリと跳ねた。

 兄の柾人は単身赴任の多い父に代わり、大学へ通いながら柚月の面倒を見てくれている。

 そのせいか、妙に勘が鋭い。
 隠し事などがある、こんな時には少し心苦しい。