柚月はむくりと起き上がる。

 トレーナーの襟から革紐を引っ張り、蒼色の勾玉を取り出した。
 中は空洞でとろりとした液体が入っているのか、持つ角度を変える度に反射した光がゆっくりと移動する。



 東雲と初めて逢った時、別れ際に渡されたものだ。

 彼が言うには、元の世界と【月鎮郷】を繋ぐ媒介のようなものらしい。
 常に身につけておかないと、召喚された時に【次元の狭間】に閉じ込められてしまう。

 そんな脅しにも取れる説明のせいで、嫌でも手放せなくなった。


 柚月はむっと唇を引き結ぶ。
 時々、これを叩き壊してやりたい衝動に駆られる。


 一方的に利用されるのは、まっぴら。
 これ以上、東雲の思惑に流されたくない。


(……でも)


 ちらりと側にある机を見る。

 押し花のしおり。
 熱心な読書家でもないのに、それだけがたまっていく。


 毎回、宗真からもらう花だ。
 捨てられなくて、手元に置いてある。

 いつか、宗真が朧気に話してくれたことがあった。